「やわらかいのにしっかり支える」は可能?物理で紐解く寝具選び

※本記事は、一研究員の考察です。
また、寝具選びの考え方をわかりやすく整理するため、物理学や高分子化学、材料力学などの考え方を簡略化して説明しています。

こんにちは!
「ねるゾウのねむり研究室」研究員のHanaです。

今回は、寝具選びで直面する「やわらかさ」と「しっかりとした支え」の両立について、横向き寝の枕を例に考えていきます。

機能性の高い枕なら、卵を押し付けても割れない!?
(もちろん押し付けすぎると割れてしまいますが笑)

寝具を選ぶ際に大事なポイントを、一緒に見ていきましょう!

研究員Hanaの悩み

横向き寝まくらの限界?

横向き寝の私 研究員Hana、ずっとこんな悩みを抱えていました。

研究員Hana
研究員Hana

ふわっとした羽毛まくらは やわらかくて気持ちがいいけれど、頭を乗せると潰れて低くなってしまう(底つき)。
でも、高さを保てる蕎麦殻まくらは硬すぎる、、、

「中間のちょうどいい素材を探す?」
「そもそも、そんな都合のいい枕なんて存在するのか、、、?」

そんな時ふと思い出した、物理のあの公式。

 力(F)=質量(m)×重力加速度(g)

「頭の重さ(質量)」が変わらない限り、頭にかかる力は変わらない。

力が同じなら、今よりもやわらかく、かつ横向き寝に必要な高さをキープしながらしっかり支えてくれる枕なんて存在しないのでは、、、

そんなふうに思っていました。

ですが実際には、そんな考えを覆すような寝具も存在します

ポイントは、

  1. 接触面積を広げて「体圧分散」
  2. 「ハンモック効果」の起きづらい素材
  3. 適切な「ばね定数」をもった素材

の3点です。

順番に見ていきましょう。

ポイント①:接触面積を広げて「体圧分散」

「力」ではなく「圧力」

まずは、「力」と「圧力」の関係を見ていきましょう。

  • 「力」は、物体を動かしたり変形させたりする作用そのもの
    力(F)=質量(m)×重力加速度(g)
  • 「圧力」は、単位面積あたりに垂直に加わる力
    圧力(P)=全体にかかる力(F)÷触れている面積(A)

同じ「力」がかかっていても、それを受ける面積の大きさによって「圧力」は変化します。

人間は、一部分に集中した「圧力」を感知した時に、「硬い」「痛い」と感じる傾向があります。

蕎麦殻まくらを使用する際にかかる「圧力」

蕎麦殻まくらは 頭と枕の接触面積が狭くなりやすく、小さい面積に頭全体の力がかかります。

そのため、接地面にかかる圧力は大きくなります。

これが、蕎麦殻まくらを「硬い」「痛い」と感じる原因です。

体にかかる圧力を分散する「体圧分散」

これを解決するために、体と寝具の接触面積を広げて 体にかかる圧力が一部分に集中しないよう分散させることを「体圧分散」といいます。

体圧分散に優れた寝具を使用することで、圧力の集中を防ぎ、寝ている時の不快感を改善することができます。

実際に、体圧分散性の高さを示すデモンストレーションとして、寝具の上で卵に力を加えても割れない様子が紹介されることがあります。

卵が割れないということは、それだけ力が分散されているということです。

快適な寝心地を実現する上で、体圧分散は重要なポイントのひとつといえます。

ポイント②:「ハンモック効果」の起きづらい素材

フィットしているように感じる枕でも…

研究員Hana
研究員Hana

でも、自分の今のまくらは頭にフィットしていそう。
枕と頭の接触面積は広く取れているし、圧力も変わらないはず。
今の枕よりもやわらかく感じることなんてないのでは、、、?

実は、接触面積が広ければ必ず快適になるというわけでもありません。

枕の素材によっては、頭の形にフィットしてしているように感じても、圧迫感を感じることがあります。

その原因のひとつが「ハンモック効果」です。

ハンモック効果とは

ハンモック効果とは、素材が面として突っ張ることで、出っ張った部分やその周辺に余分な力が伝わりやすくなる現象です。

ハンモックやストッキングを想像すると、イメージしやすいかもしれません。

硬い布地のハンモックに寝転ぶと、一見 ハンモックは体にフィットしているように見えます。

しかしながら、実際は 体の出っ張った部分が布の一部を押し下げることで 周りの布を引っ張り、突っ張っている状態です。

肩やお尻などの出っ張りやその周辺に圧迫感を感じる様子が、想像できるのではないでしょうか。

寝具にも同様のことがいえます。

枕などで使用される一部のウレタン素材は、内部が連続した構造を持っています。

そのため、頭の出っ張り(耳など)が一部分を押し下げると、その周囲も一緒に引っ張られて ハンモックのように突っ張った状態になることがあります。

この突っ張りが、頭の出っ張った部分をさらに強く圧迫したり、側頭部を締め付けたりすることで、圧迫感につながる場合があります。

「接触面積」だけでなく、「素材の特性」も重要

このように、「頭の形にフィットしているように見える」場合でも、必ずしも「圧迫感が少ない」わけではないといえます。

圧迫感が気になる方は、ジェル格子素材(TPE)など 面として突っ張りにくい構造の素材も選択肢に入れてみると、より快適な寝心地を得られるかもしれません。

ポイント③:適切な「ばね定数」をもった素材

「体圧分散」や「ハンモック効果の軽減」だけでは まだ足りない?

これまで、接触面積を増やす「体圧分散」や、「ハンモック効果」の起きづらい素材について見てきました。

しかしながら、接触面積が同じで、ハンモック効果もほとんどない素材でもまだ、「硬い」「やわらかい」の感じ方が異なる場合があるのです。

それが、「ばね定数」の違いです。

バネのやわらかさと「ばね定数」

寝具店へ行くと、見た目はほとんど同じなのに、硬さが異なるバネが展示されていることがあります。

これらは、バネの直径や高さは一緒ですが、バネを形作る鋼線の太さが異なります。

同じ力で押してみると、鋼線の太いバネは硬く、鋼線の細いバネはやわらかく感じます。

この違いを表しているのが、「ばね定数」と呼ばれる値です。

 力(F)=ばね定数(k)×伸び縮みした長さ(x)

鋼線の太いバネは ばね定数が大きく、ほとんど伸び縮みしません。
一方、鋼線の細いバネは ばね定数が小さく、伸び縮みの幅は大きくなります。

※厳密には、寝具素材の多くは 沈み込むほど ばね定数が変化する特性を持っています。今回はイメージしやすくするため、あえてシンプルなバネの公式で説明していきます。

人間が感じる「やわらかさ」とは

そもそも人間は、硬さ・やわらかさをどのように感じているのでしょうか。

複数の要素があると言われていますが、ひとつに「どれくらいの力で、どれくらい沈み込んだか」が挙げられます。

同じ力を加えたときに、

  • あまり沈まない→硬く感じる
  • 深く沈む→やわらかく感じる

つまり私たちは、無意識のうちに「ばね定数」を感じ取っているともいえます。

ちなみに、ここで大事になってくるのは「どの高さで止まったか(縮んだバネの全長)」ではなく、「元の高さからどれだけ沈んだか(バネがどれだけ短くなったか)」です。

最終的に同じ高さで止まる枕でも、そこに至るまでの沈み込み量が大きいほど、人はやわらかく感じやすいと考えられます。

ばね定数が小さければ小さいほどよい、というわけではない

ここまで見てくると、極限まで高さを出し ばね定数を小さくすれば、最高にやわらかい枕ができるのではないかと思えてきます。

しかしながら、このような寝具は安定性が低くなりやすく、寝返りもしづらくなる可能性があります。

また、ばね定数が小さい素材では、別の問題も発生します。

バネに限界まで力をかけ 縮んだ長さが「最大圧縮量」に達すると、それ以上縮むことができなくなります。

こうなると、一時的にバネとして機能しなくなり、F=kxという式も成立しなくなります。

これが冒頭にお話しした、羽毛まくらの底つきです。

同じ力がかかった場合、ばね定数が小さいほど大きく沈み込みます。

そのため、「最大圧縮量」に達しやすくなり、底つきが起こりやすくなります。

ばね定数が小さければ「やわらかい」、けれども 安定せず、底つきもしやすい。

大事なのは、求める寝姿勢に対して「ばね定数」と「元の高さ」のバランスが取れた枕を選ぶことです。

「やわらかい」と「しっかり支える」を両立できる寝具を選ぶために

これまで見てきたように、頭の重さそのものが変わらなくても、

  1. 力を受ける面積(→「体圧分散」に優れた寝具)
  2. 素材内部での力の伝わり方(→「ハンモック効果」の起きづらい素材)
  3. 同じ力に対する沈み込み量(→適切な「高さ」と「ばね定数」をもった寝具)

を変えることで、睡眠環境を快適にすることは可能だといえます。

「やわらかさ」と「しっかりした支え」を求める方は、ぜひ今回ご紹介した三点を意識して 寝具を選んでみてください!

次回は、「やわらかさ」と「しっかりとした支え」の両立を期待できる寝具をご紹介予定です。

お楽しみに!

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